民事信託は、家族のために財産を活用する仕組みづくりです。
民事信託を設定すると、不動産や金融資産を、子どもや信頼できる人に活用してもらい、将来、自分や家族が生活に困ることがないようにしておくことができます。
もともと、自分の財産は自分が思っている通りに活用することができます。他人のための財産活用であったとしても、本人が望んでいれば禁止されることはありません。ところが、後見制度を利用するときや相続手続きがはじまると、自分が思っている通りには財産の活用がされないといった事態が生まれます。後見や相続が始まった場合には、もはや本人が財産をコントロールすることができる状況にはなく、本人の意思が確認できない中で新しく設定される法律関係は、必ずしも本人の意思を反映させるような制度設計にはなっていないからです。このことは、自らの意思で自らの財産をコントロールするという私的自治が支配する民法の世界では、当然のことともいえます。
民事信託は、このような民法の世界に修正を加え、後見や相続が始まった以降も、信託法という独自の世界観で、本人が望む家族のための財産の有効活用を可能にします。

民事信託のすすめ

1.後見のケース

後見制度を利用すると後見人が本人に代わって財産管理をすることになります。このとき後見人は、管理している財産を本人の生活のためだけに管理・処分することが厳格に求められます。
そのため、後見人や家庭裁判所により本人の生活のための財産活用にならないと判断されると、本人が望んでいたとしても、家族のための財産活用は実現されないことになります。とくに、本人の日常生活のための財産活用を超えた、本人の有する財産の有効活用については、ハードルがあがります。それは、家族によって認知症の状態にある本人の財産を勝手に使うことを認めない一方で、家族が認知症の状態にある本人の財産を有効活用することができず、財産管理に課題を抱えることを意味します。つまり、本人が多額の資産を有していたとしても、本人の日常生活の範囲内で家族が活用することができるにとどまり、それ以上の財産の有効活用はできないことになります。
このような不都合を避け、本人が望む家族のための財産の有効活用を実現するためには、民事信託を設定することが有益です。後見制度の利用が開始されても、信託の担い手となる受託者が、本人が思い描いていた家族のための財産の有効活用を実現してくれます。

2.相続のケース

遺言は、相続発生後に自らの財産を誰にどれだけの財産を譲り渡すかをあらかじめ決めておくことができる法律行為です。相続が発生すると、亡き者の財産は相続人が共有することになるのが原則論ですが、そのことに修正を加えることができる制度が遺言書です。
もっとも、遺言書により財産を承継した者は、受け継いだ財産を自由に活用できますので、遺言者が思っている通りに、財産活用がされるという保障はどこにもありません。相続発生後も、財産をある一定の目的のために活用してもらいたいと考える遺言者は、遺言書作成のみならず、別の方法を検討しておかなければなりません。このことを実現する法制度が民事信託です。
配偶者や障がいのある子どもの面倒をみてもらいために書き記す遺言書、先祖代々の財産を何世代かにわたって承継するために書き記す遺言書、ご商売をなさっている方が次世代の方に事業を継続してもらたいために書き記す遺言書、ひきこもりのお子さんの暮らしに配慮するために書き記す遺言書など、遺言書作成を試みる思いは百人百様です。
遺言者の財産を子ども世代が生活の糧にできるように財産を残すことを考えている親世代からすると、本当に自分の思っている通りに財産を活用してくれるのかどうかは気になるところです。
LGBTパートナーがお互いの生活のために書き記す遺言書やおひとり様の方が終活のために書き記す遺言書も、財産を託す側からすると、法定相続人が存在する関係で、本当に自分の思っている通りに財産が譲り渡されるかどうか気になります。
このような気がかりを解消するためには、家族や信頼できる人との間で、財産を有効に活用してもらうための目的を明確に定め、しっかりとした手続きのもと、財産活用をすることができるように配慮しておくことが大切です。このことを実現する契約が、民事信託契約です。

民事信託設計のための手順

1.民事信託を設定する必要性の確認

後見制度の利用や遺言書作成、財産管理契約等の締結で、本人が望む財産活用を実現できるケースでは、無理に民事信託を設定する必要はありません。民事信託のはじまりは、そのことの確認からです。

2.利害関係人(相続人等)の調査

経済的な利益を得られない関係者は民事信託の設定を問題にし本人の思いを妨げます。そのような人物の存在を確認し対策の準備をします。

3.信託財産の調査

信託財産の管理・処分の方針を決める上で、不動産評価額や金融資産の総額を把握することは必要不可欠です。

4.民事信託の設計

事務負担の軽減、権利や利益の擁護、課税関係、残余財産の権利帰属者への配慮に至るまで、民事信託が終了するまでの間、問題なく運用されていくための信託設計が必要です。

5.民事信託のための手続き

公証役場での手続きを通じて、公正証書にします。信託財産が不動産の場合は、信託登記をし、金融資産の場合は、信託財産を管理するための口座を新しく作ります。賃貸不動産や株式を信託財産とすることも可能です。信託財産に応じて手続が異なりますので、信託設定にあたっては財産ごとの対応が必要になります。

関係者の立ち位置

民事信託契約では、財産を保有する「委託者」が「受託者」に財産をあずけ、財産を有効に活用できる一定の目的を設定し、その目的を達成するための仕組みを信託契約で定めておきます。「受託者」は、信託契約で定めた内容にしたがい財産を活用し、財産から生み出される利益を「受益者」に獲得させるよう活動します。「受託者」が契約内容にしたがって、財産の活用をしているかどうかをチェックする仕組みを信託契約に盛り込んでおくこともできます。

行政書士の役割

民事信託契約は、目的の設定にはじまり、権利関係の設定などその手続きも複雑です。行政書士が、自分や家族のための財産活用を実現する信託契約書の作成と手続きのお役に立ちます。