空き家対策とは何か
相続人全員に持ち家があり、ご両親の施設入所や他界により、実家が空き家になるケースが全国的に増えているということが空き家が増加している主な理由です。令和5年の住宅・土地調査統計によると全国の空家数は900万戸、全住宅の13.8%が空き家とのデータがあり、このままでは空き家は増加する一方であると予想されています。
空き家には、住環境の悪化や犯罪の温床につながることのほか、倒壊のおそれがあるなど多くのリスクがあります。ところが、空き家を取り壊して更地にすると、固定資産税が跳ね上がるため、空き家のままでも家屋を残しておきたいという現実的なニーズが存在します。
空き家対策の第一歩は、空き家状態を解消するための活用方法を検討し、空き家をいつまでにどのように活用するかということについて計画を立てることです。そのための支援をすることが行政書士の重要な役割となります。
活用方法としては、①売却、②賃貸、③リフォームをして活用する、④解体して新しく建物を建てる、⑤解体して更地として活用する、⑥時期が来るまで管理をするといったことが考えられます。
空き家を現時点では活用せずに資産として残しておきたいというケースでは、人生のライフステージに配慮した対応策を検討することも必要になります。たとえば、空き家をとくに活用せずにそのまま亡くなってしまうケース、空き家所有者が認知症になってしまい空き家の活用ができなくなってしまうケースといったことを想定しておく必要があります。
遺言書作成
遺言書がなく相続手続が開始すると、遺産分割協議が必要なため空き家を相続する相続人がいない限り、その物件は、相続人共有で、空き家のまま放置されることになります。更地にしてしまうと、固定資産税が跳ね上がるといった問題がありますし、駐車場を設置するといったケースでも、初期費用の投資が必要になります。そのため、相続人共有の状態にしておくと結局手つかずのまま、空き家として放置される期間が長期に渡ることになり、空き家リスクが増大します。
また、空き家対策をめぐって相続人間で意見の対立が発生することも考えられますので、相続人の共有状態はできるだけ避ける方策を考える一方で、共有状態になった場合には、早期に相続人間で話し合いの場を設け空き家を相続する人物を確定することが必要です。
このようなことを踏まえると、空き家を現時点では活用せずに資産として残しておきたいという空き家の所有者は、空き家の活用方法を検討しつつ、亡くなった後のことも考え、空き家を承継する人物を遺言書作成により決めておくことが賢明であると考えられます。
遺言書作成をすることで次なる権利者を確定することができるので、空き家を売却したときと同様に空き家リスクを解消することにつながります。
ビジネスとしての利活用
持ち家を有し、住むつもりがない家族にとっては、ただの「空き家」でも、利用価値を感じる人は多くいます。カフェ、オフィス、保育園やグループホームとして利活用するなど、空き家の活用や運営をしたいと考えている人々は多くいます。
将来の活用を考えるために、現時点での対応として、空き家の敷地の草刈りをすることやリフォームをすること、借り手を探してもらうといったことを検討することも大切なことです。空き家を残したまま売却を考えたり、更地にして売却するために建物を解体したりすることも、有効な空き家の活用方法といえます。
公正な立ち位置にある法律家としての行政書士は、相談者のニーズを的確にとらえ、事業者につなぎ相談者の利益を最大限図ることができます。事業者と相談者の間に立って契約書(請負・売買・賃貸借・使用貸借など)の作成や確認を通じて、空き家活用の適正化を図り、安心できる空き家活用を考えることが可能になります。空き家問題の総合窓口として行政書士をご活用ください。
民事信託の活用
相続人が空き家となる予定の実家に関心がない理由は、相続人全員に持ち家があり、利用価値を感じていないところにあります。そこで、利用価値を感じてもらうためにも、あらかじめ民事信託に関する契約書の作成を通じて、物件の処分や管理を一任しておくということが考えられます。
将来、空き家になる可能性の高い物件を信託財産の一つにして、民事信託を活用することで、その物件を任された受託者は、信託目的に応じて、その物件を処分あるいは管理することができます。収益力のある物件では、大修繕や家賃の管理などを適時に実施する必要がありますので、民事信託を設定しておくと空き家対策にとどまらない物件の管理・運用につながります。
財産管理の面でも、民事信託に関する契約書の作成は役立ちます。たとえば、施設入所により実家が空き家となる際に、施設への高額な支払いに備えて、実家を売却できるようにしておくために、民事信託に関する契約書を作成しておくといったケースです。後見人が付されると、施設入所の費用負担のために実家を売却することが手続き上困難になりますので、元気なうちに民事信託に関する契約書を作成し実家を売却できるようにしておくことで空き家対策になるとともに、財産の有効活用につながります。
相続土地国庫帰属制度の活用
令和5年4月27日からは、相続によって取得した土地で、一定の要件を充足する土地については承認申請手続きを通じて、国庫帰属させることのできる制度が導入されています。これが相続土地国庫帰属制度です。
市街化や農業振興が抑制されている地域内の宅地や田畑については、土地の広さに関わらず、一律20万円の負担金を負担することで、当該土地の所有権を手放すことができます。雑種地や原野であれば、いかなる地域にあっても、いかなる広さであっても、一律20万円の負担金になります。
市街化や農業振興を図る地域にある宅地や田畑、あるいは森林については、面積に応じた負担金の算定式があり、それに応じて、負担金を計算することになります。
令和6年4月1日から相続登記の義務化がスタートし、相続により不動産を取得した相続人は3年以内に相続登記をしなければならないことになりますが、相続土地国庫帰属制度は、相続登記を経由せずに利用することも可能です。